お知らせトピックス2014-012

全学研究推進機構の一二三恵美教授が,第34回「猿橋賞」の贈呈式及び受賞記念講演に出席しました

 本学 全学研究推進機構の一二三恵美教授が,5月24日(土)東京・霞が関東海大学校友会館において,第34回猿橋賞の贈呈式及び受賞記念講演に出席しました。
 猿橋賞は,自然科学の分野で顕著な研究業績を収めた女性科学者に贈られる賞で,受賞対象となった研究テーマは「機能性タンパク質『スーパー抗体酵素』に関する研究」です。

【受賞についてのコメント】
 この度は,身に余る賞をいただき,光栄に思うと同時に強く責任を感じています。
 私はある意味,偶然に研究の世界に入りました。目の前の課題はいつも大きくて,私なりに精一杯に取り組みながら今日に至っています。しかし,心のどこかに「もっと別の方法があったのではないか」という気持ちがあったのも事実で,今回の受賞は「これまで通りで良い」と研究者としての免許を頂いたと感じています。この「免許」が頂けたのは,導き,支えて下さった全ての方々のお陰です。
 「受賞者はそれぞれの研究場所で成果を上げなさい。それが受賞者の最大の使命。」という言葉が猿橋勝子先生の口癖だったと伺いました。初心を忘れずに真摯な気持ちで研究を続けると同時に,これからは皆様から頂いた御恩を後輩に向けて返して行きたいと思います。


【研究業績要旨】
受賞研究題目 「機能性タンパク質『スーパー抗体酵素』に関する研究」
(Studies on"Super Catalytic Antibody")

 一二三恵美氏は,タンパク質(ペプチド分子)を分解する能力を有する抗体酵素を1999年に世界に先駆けて見出し,各種タンパク質を分解しうることから「スーパー抗体酵素」と名付けて独創性の高い研究を展開している。

 抗体は,特定の分子(抗原)を認識して特異的に結合する糖タンパク質であり,周知のように脊椎動物の免疫を担う分子として,現在活発な研究対象であるばかりでなく医療の場に広く活用されている。他方,1980年代後半から比較的単純な化学反応の遷移状態に似た抗原分子(遷移状態アナログ)を用いて作製した抗体の触媒作用や,特殊なペプチドを分解する天然型抗体等が報告され,抗体の酵素作用(触媒作用)も世界的な注目を集めるに至っている。この中で,一二三氏は,それまでの研究からは想像できない,抗体の軽鎖部分がペプチド分子を分解するという全く新しい現象を発見し,この事実を2年半の年月をかけて粘り強く丁寧に検証した。さらに標的として選んだ各種タンパク質分子に対して分解機能を有する抗体触媒を積極的に作製して,その応用展開を図り,数々の目覚ましい研究成果を上げている。

 一二三氏は,初期の研究段階からウィルスの表層に存在するペプチド分子の分解反応に注目し,狂犬病,インフルエンザなどのウィルスによる感染症の治療薬,さらには抗がん剤としての応用を視野に入れた独自性の高い研究を展開している。そのために,抗体の軽鎖及び重鎖を用いて様々な独自の抗体酵素を調製し,その酵素機能の発現の確認とメカニズムの研究に取り組んでおり,最近ではウィルスの分解へのin vitro試験に成功し,一部は動物実験にまで至っている。標的タンパク質を目的通りに攻撃・破壊してしまうという性能を持つことがスーパー抗体酵素と名付けた理由である。最近では,抗体酵素の作用機構などの基礎研究を進め,標的タンパク質で免疫して得られた多種類の抗体から触媒機能を持つ抗体を選別する基盤技術を開発し,これを応用展開してヒト由来抗体酵素の作製にも成功している。

 一二三氏の研究業績は,基礎研究だけでなく実用化をも視野に入れた,独創的研究として高く評価され,新領域のさらなる開拓が期待されるものである。

 一二三氏は,山口大学医療技術短期大学部(当時)を卒業後,企業研究者,公立大学教員を経て,現在,大分大学教授である。その間,さきがけ研究へも採択された。このように多様なキャリア形成の可能性を示すうえでも,貴重なロールモデルとなる女性科学者である。
(一般財団法人 女性科学者に明るい未来をの会 ホームページより)