お知らせトピックス2016-024

医学部 内分泌代謝・膠原病・腎臓内科学講座 岡本将英医員,柴田洋孝教授らが,アジア初の免疫チェックポイント阻害薬に関連する劇症1型糖尿病を報告

 本学医学部内分泌代謝・膠原病・腎臓内科学講座の岡本将英医員,柴田洋孝教授らが,免疫チェックポイント阻害薬(※1)である抗PD-1抗体による劇症1型糖尿病(※2)の発症例を本学医学部附属病院において確認し,アジア糖尿病学会誌(Journal of Diabetes Investigation)にアジア初の報告として論文が掲載されました。
 免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ(抗ヒトPD-1モノクローナル抗体)は,2014年に世界に先駆け日本で悪性黒色腫や非小細胞肺癌に対する抗癌剤として承認された薬剤ですが,副作用として下垂体炎や甲状腺炎などの自己免疫疾患の発症が注視されており,糖尿病発症の可能性も報告されています。
 免疫チェックポイント阻害薬は,癌治療で広く用いられていることから,肺癌を含め今後も使用例の増加が予想され,本年厚生労働省および日本糖尿病学会から全国に注意喚起がなされています。実際には,劇症1型糖尿病発生の報告は世界でも数例しかありません。今回岡本医員らは発症を確認し,アジアで初めてとなる報告を行いました。
 発症の仕組みや背景となる因子はまだ不明な点が多いものの,今回報告した症例では1型糖尿病感受性HLA(※3)タイプが発症に関与する可能性が考えられます。
 糖尿病患者では癌が主要な死亡原因となりますが,癌の免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療によって糖尿病が発症する事実を確認しました。
 劇症1型糖尿病はその発見が遅れると致死的であることから,医療者は本薬剤治療により深刻な副作用を生じる可能性があること,本薬剤治療中の患者さんの定期的な血糖検査の実施が大切なことを認識する必要があります。本院においても今後の診療において留意し,周知していきます。

アジア糖尿病学会誌 Journal of Diabetes Investigation 論文掲載ページは こちら



※1 免疫チェックポイント阻害薬
これまでの免疫療法は,免疫機能の攻撃力を高める方法が中心であったが,最近,がん細胞が免疫の働きにブレーキをかけて免疫細胞の攻撃を阻止していることが判明した。このことから開発された,免疫チェックポイントと呼ばれるブレーキ役の部分(PD-1とPD-L1)の結合を阻害する作用を持つ薬。

※2 劇症1型糖尿病
膵臓でインスリン産生細胞が壊れておこる1型糖尿病が短期間に発症するタイプの糖尿病。

※3 HLA
ヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen)。1954年に白血球の血液型として発見され,頭文字をとってこう呼ばれてきたが,発見から半世紀以上を経て,HLAは白血球だけにあるのではなく,ほぼすべての細胞と体液に分布していて,組織適合性抗原(ヒトの免疫に関わる重要な分子)として働いていることが明らかになった。
1型糖尿病の発症機序を遺伝子で解明しようという動きから,日本人,欧米人,アフリカ系米国人などを対象とした研究で,特定のHLA遺伝子型を持つと1型糖尿病の発症率が高くなることが報告されている。