お知らせトピックス2016-031

世界最高レベルの性能を持つアンモニア合成触媒を開発
-金属の特殊な積層構造と塩基性酸化物の相乗作用-

 本学工学部の永岡勝俊 准教授,佐藤勝俊 客員研究員らの研究グループは,これまでの工業プロセスよりも効率的にアンモニアを生成するために必要とされている,世界最高レベルのアンモニア合成性能を示す新たな触媒を開発しました。

 この研究成果は,平成28年9月19日に,英国王立化学会(The Royal Society of Chemistry)が発行するフラッグシップジャーナルであるChemical Science誌オンライン版に掲載されました。

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本研究成果のポイント

・アンモニアは化学肥料の原料として重要な化学物質であり,近年は再生可能エネルギーの貯蔵・輸送を担うカーボンフリーのエネルギーキャリアとしても重要性が増している。そのため,アンモニアを高効率で生産する高活性な触媒の開発が求められてきた。
・既存の工業プロセスよりも理想的な条件で,世界最高レベルのアンモニア合成性能を示す触媒を開発することに成功した。
・開発した触媒の表面は特殊な構造を持つこと,さらにその表面構造と担体の塩基性の相乗効果によって,高いアンモニア合成活性が実現していることを明らかにした。
・開発した触媒によって,既存のプロセスの省エネ化・合理化,再生可能エネルギー由来のアンモニア生産プロセスの実現が期待できる。

概要

 アンモニア(化学式:NH3)は,人類が最も多く生産する窒素含有物であり化学肥料の原料として重要な化学物質です。
 20世紀初頭にドイツのハーバーとボッシュらによって実現された工業的合成プロセス(ハーバー・ボッシュ法)によりアンモニアの大量生産が可能となったことで,食糧生産が安定化し,このことがその後の世界的な人口増加の起爆剤になったと考えられており,現代でも世界の食糧生産の根幹を担っています。また近年では,再生可能エネルギーの貯蔵・輸送を担うカーボンフリーのエネルギーキャリアとしても注目されており,化石資源の枯渇によって引き起こされるエネルギー問題を解決する切り札として期待されています。
 しかしながら従来の合成方法では非常に高温・高圧のプロセスにもかかわらず,アンモニアの回収量が少ないため,アンモニア生成の過程で多量のエネルギーが浪費されています。
 この問題を解決し,アンモニアを省エネルギーで生産するプロセスを実現するために,従来のアンモニア合成で使用される鉄を主成分とする触媒に代わる,新たな触媒の開発が求められていました。
 今回の永岡准教授らの開発した新たな触媒は,工業生産時のアンモニア合成で消費するエネルギーの低減につながるものであり,21世紀の食糧生産とエネルギー問題という世界的な課題の解決が期待されます。
 なお,本触媒については特許出願を完了しており,今後の工業化が期待されます。

【参考図】

図1 開発したRu/Pr2O3触媒の模式図
(※クリックすると拡大します)

酸化プラセオジム(Pr2O3)担体を結晶性の低いルテニウム(Ru)のナノレイヤーが覆っている。



図2 Ru/Pr2O3と従来型触媒のアンモニア生成速度の比較。
(※クリックすると拡大します)

空間速度:18 L h-1 g-1,反応圧力:0.9 MPaという工業プロセスと比較して温和な条件でアンモニアの生成活性を比較した。従来型の高活性触媒として知られているRu/CeO2やRu/MgOと比べて,Ru/Pr2O3は高いアンモニア生成速度を示す。

研究内容の詳細について

世界最高レベルの性能を持つアンモニア合成触媒を開発
-金属の特殊な積層構造と塩基性酸化物の相乗作用-


論文情報

タイトル:“A low-crystalline ruthenium nano-layer supported on praseodymium oxide as an active catalyst for ammonia synthesis”
(高活性なアンモニア合成触媒としてふるまう酸化プラセオジムに担持されたルテニウムの低結晶性ナノレイヤー)

著者名:Katsutoshi Sato, Kazuya Imamura, Yukiko Kawano, Shin-ichiro Miyahara, Tomokazu Yamamoto, Syo Matsumura, and Katsutoshi Nagaoka

掲載誌:Chemical Science

doi:10.1039/c6sc02382g