お知らせトピックス2016-013

工学部応用化学科 永岡勝俊 准教授らの論文が Nature Publishing Group の電子ジャーナル Scientific Reports に掲載されました

 本学工学部の永岡勝俊 准教授,九州大学稲盛フロンティア研究センターの古山通久 教授,九州大学大学院工学研究院の松村晶 教授,京都大学大学院理学研究科の北川宏 教授らの研究チームは,パラジウム(Pd)とルテニウム(Ru)からなる合金ナノ粒子が,ロジウム(Rh)と同等以上の非常に高い自動車排ガス(※注1)浄化性能を示すこと,その原因がPdRu固溶型合金の持つ電子的な特徴がRhと非常に良く似ているためであることを明らかにしました。

 ロジウムは産業上重要な元素(貴金属)であり,自動車の排ガス浄化用触媒に大部分が使用されています。しかし,ロジウムは希少で高価なため,ロジウムに匹敵する性能を持ち,ロジウムと置き換えることのできる新しい物質の開発が求められていました。
 本研究グループはRhよりも資源量が豊富なPdとRuに注目しました。この2つの金属は周期表上でRhの両隣に位置するため,2つの金属の合金は周期表上で間に位置するRhに似た性質を示す可能性があると予想できます。従来,PdとRuはバルクレベルでは合金を作ることができない元素の組み合わせとして知られていましたが,研究グループではナノサイズ化と化学的還元の手法を駆使することで,PdとRuが原子レベルで混合した固溶型合金ナノ粒子(※注2)を合成し,自動車排ガスの主成分である窒素酸化物(NOx)(※注3)の浄化に対する触媒活性を調べました。その結果,開発したPd-Ru固溶型合金ナノ粒子がRhをしのぐ触媒性能を持つ事を見出しました。更に,この原因について密度汎関数理論(※注4)に基づき解析したところ,PdRu固溶型合金がRhに非常によく似た電子的特徴を持つこと,つまり,PdRu固溶型合金が「擬似ロジウム」として振る舞うことを明らかにしました。

 開発したPdRu固溶型合金ナノ粒子は,触媒化学のみならず,様々な分野で擬似ロジウムとしての応用が期待できます。更に今回の研究成果は,目的とする性質や特徴を元素間の原子レベルでの混合によってデザインするというコンセプト(DOSエンジニアリング)を提示,実証するものです。今後このコンセプトをさまざまな元素の組み合わせに拡張することでさらなる新物質の開発,機能の発現が期待できます。

 本研究成果は,2016年6月24日にNature Publishing Groupの電子ジャーナル「Scientific Reports」で公開されました。

 本研究は,科学技術振興機構(JST)戦略的創造推進事業 チーム型研究(CREST)「元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出」の研究課題「元素間融合を基軸とする新機能性物質・材料の開発」(研究代表者:北川宏 京都大学大学院理学研究科教授)(研究機関:平成23~27年度)の一環で実施されました。

Scientific Reportsの掲載ページはこちら



(※注1)自動車排ガス
自動車の走行にともなって排出されるガス。窒素酸化物(後述),一酸化炭素,未燃焼の燃料などを含む。大気汚染などの環境問題を引き起こす原因となるため,排出が厳しく規制されており,規制値を満たさない車両は登録、販売ができない。
(※注2)固溶型合金ナノ粒子
2種類以上の金属が原子レベルで均質に混合した合金からなるナノメートルサイズの微粒子。
(※注3)窒素酸化物
エンジン内で燃料が燃焼する過程で,燃料中の窒素や空気中の窒素と酸素が高温にさらされることで発生する。NOx(ノックス)とも称される。光化学スモッグや酸性雨の原因となり,人体に対しても有害である。
(※注4)密度汎関数理論
量子力学に基づいて対象とする系の電子系のエネルギーや電子状態を電子密度から計算する方法。