お知らせトピックス2017-101

再生可能エネルギー利用型のアンモニア合成プロセスに適した触媒を開発
-高温還元処理で発現する複合酸化物担体と金属の特異的な協働作用-

 本学理工学部共創理工学科の小倉優太 博士研究員,佐藤勝俊 客員研究員(京都大学触媒・電池元素戦略研究拠点 特定助教),永岡勝俊 准教授らの研究グループは,再生可能エネルギー利用に適した温和な条件で,非常に高いアンモニア合成活性を示す新規触媒として,ランタンとセリウムの複合希土類酸化物を還元した担体に,ルテニウムを担持した酸化物担持型触媒(Ru/La0.5Ce0.5O1.75-x)を開発しました。

 開発した触媒は簡単に大気中で調製でき,取り扱いも容易なため,再生可能エネルギーを利用したアンモニア生産プロセスの実現が望まれています。また,今回の触媒設計を応用することで,さらに高活性なアンモニア合成触媒が創製できると期待できます。

 本研究成果は,英国王立化学会(The Royal Society of Chemistry)のフラッグシップジャーナルChemical Scienceのオンライン版にて現地時間2018年1月29日9時(日本時間2018年1月29日18時)に公開されました。

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本研究成果のポイント

  • アンモニアは再生可能エネルギーのエネルギーキャリア 注1)として注目されているが,これまで高温,高圧プロセスで合成されており,再生可能エネルギーの供給に応じ,利活用したい時間・場所に対応して適切に合成できるよう,より温和な条件での反応を可能とする触媒開発が期待されていた。
  • 本研究開発において,温和な条件で,酸化物担持型触媒 注2)としては最高レベルのアンモニア合成性能を示す触媒の開発に成功した。
  • 精緻な高温還元処理により,活性点となる金属ナノ粒子の一部が,還元された担体に覆われた特殊な構造を持つことが,従来よりも温和な条件でのアンモニア合成能につながっていることを明らかにした。
  • 再生可能エネルギーの供給に合わせ,必要なときにアンモニアを合成できる小型アンモニア生産プロセスの実現が期待できる。

概要

 アンモニアは化学肥料の原料として重要な化学物質であり,世界の食糧生産の根幹を担っています。またアンモニアは近年,再生可能エネルギーの貯蔵・輸送を担う,水素・エネルギーキャリアとしても注目されています。
 従来の工業プロセスでは,鉄を主成分とする触媒を用い,非常に高い温度と圧力下(>450ºC,>200気圧)でアンモニア合成が行われてきました。これに対して再生可能エネルギーを利用した小型の分散型プロセスでは,再生可能エネルギーの供給状況に合わせてアンモニアを製造する必要があるため,利便性に富む温和な条件(325 - 400ºC,10 - 100気圧)でアンモニアを効率的に得ることができる高性能な触媒の開発が求められてきました。さらに,開発した触媒は,簡単に調製でき,安定で,取り扱いも容易であることも重要な要素でした。

 今回研究グループが触媒の開発に当たり使用したルテニウム(Ru),ランタン(La),セリウム(Ce)は比較的安価で工業的にも広く利用されている元素です。また,開発した触媒は簡便な手法で調製でき,大気中で安定なため取り扱いも容易です。開発した触媒によって,再生可能エネルギーを利用したアンモニア生産プロセスの実現が望まれており,今回の触媒設計を発展することで,さらに高活性なアンモニア合成触媒が創製できると期待できます。


   【参考図】



図1 開発したRu/La0.5Ce0.5O1.75-x触媒の模式図
LaとCeの複合酸化物上に微細なRu粒子が担持され,
さらに還元された担体が部分的にRuナノ粒子を覆っている。
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図2 開発した触媒と従来型の酸化物担持Ru触媒のアンモニア生成速度の比較
開発したRu/La0.5Ce0.5O1.75-x触媒は,
空間速度:72 L g-1 h-1,反応圧力:1.0 MPa(10気圧)という
温和な条件でも非常に高いアンモニアの生成活性を示した。
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用語の説明

注1)エネルギーキャリア
エネルギーの輸送・貯蔵のための担体となる化学物質。特に,アンモニアや有機ハイドライド,ギ酸など,海外など再生可能エネルギーが豊富な地域で得た電気エネルギーを化学的に変換して消費地まで貯蔵・輸送するのに用いられる化学物質を指す。

注2)酸化物担持型触媒
酸化物粉末の表面に,金属の微粒子や添加物を分散,析出(担持という)させた触媒。酸化物粉末は担体とも呼ばれる。自動車触媒などの工業的に利用される固体触媒のほとんどは酸化物担持型触媒である。

研究内容の詳細について

再生可能エネルギー利用型のアンモニア合成プロセスに適した触媒を開発
-高温還元処理で発現する複合酸化物担体と金属の特異的な協働作用-


論文情報

タイトル:“Efficient ammonia synthesis over a Ru/La0.5Ce0.5O1.75 catalyst pre-reduced at high temperature (高温で予備還元されたRu/La0.5Ce0.5O1.75触媒による高効率なアンモニア合成)
著者名:Yuta Ogura, Katsutoshi Sato, Shin-ichiro Miyahara, Yukiko Kawano, Takaaki Toriyama, Tomokazu Yamamoto, Syo Matsumura, Saburo Hosokawa, and Katsutoshi Nagaoka
掲載誌:Chemical Science
doi:10.1039/c7sc05343f