大学概要令和2年度 卒業式・学位記授与式 告辞

学長メッセージ

令和2年度 卒業式・学位記授与式 告辞

 晴れて本日,卒業式を迎えられた皆さん,おめでとうございます。

 この度,1,095名の学部卒業生,214名の大学院修了生の皆さんを送り出すに当たり,大分大学を代表して一言お祝いの御挨拶を申し上げます。
 昨年の卒業式は,新型コロナウイルス感染症拡大に伴い,残念ではありましたが,中止にせざるを得ない状況でした。今年は,多くの学生にとって人生に一度きりの卒業式を,どうしても挙行してあげたいという想いから,このように感染対策をとって挙行することにしました。

 皆さんにとって,大学生活最後の一年間は,新型コロナウイルスに翻弄されたものになったかと思います。対面授業が制約された中で,思うように卒業研究ができず,一人で悩んだ方も多かったでしょう。指導教員の見守る中,研究室の仲間たちと互いに励まし合い,切磋琢磨する経験は,社会に出ても心の支えとなるものですが,先輩達とは異なる環境で皆さんが卒業研究に取り組まざるを得なかったことは,我々教育者としても内心忸怩たる思いです。

 しかし,ここにいる皆さんは,オンライン授業の対応やサークル活動・アルバイトの制限など,学生生活そのものが大きく変動した中,柔軟かつ辛抱強く対応し,無事学位取得を勝ち取りました。そのことは大いに胸を張ってください。これからも,グローバル化,格差の拡大,少子高齢化など,社会の在り方そのものが大きく変化しようとしていますが,コロナ禍での学生生活を乗り越えた皆さんなら,きっとどんな変化にも対応できると信じています。

 さて,これから皆さんが社会に羽ばたくにあたって,私から伝えたいことがあります。皆さんも,ネルソン・マンデラという南アフリカの元大統領のことはご存知だと思います。人種差別撤廃を訴え,南アフリカ初の黒人大統領となった方です。実は,私は1983年から1年間,南アフリカのケープタウン大学で外科のシニア・コンサルタント・ドクターとして勤務していました。当時の南アフリカは,アパルトヘイトという人種差別政策の真っ只中で,公園のベンチまで白人専用,黒人専用と区別されているような状況でした。白人至上主義の国に有色人種として飛び込むことには若干不安はありましたが,「日本人として絶対に卑屈な態度はとらない。」と覚悟を決めて海を渡ったことを覚えています。この時,マンデラ氏が国家反逆罪の終身犯として投獄されていたことは,当時の私には知る由もありませんでした。
 マンデラ氏の投獄生活は27年間にも及びました。そのうちの18年間収容されていたのは私が住んでいたケープタウンのアパートの窓から見えるほんの10kmしか離れていないロベンアイランドという小さな島でした。後に私自身訪れましたが,約2メール四方の狭いコンクリート製の独房で,彼はたった一編の詩を心の支えとして気の遠くなるような投獄生活を耐え抜いたそうです。それは,「インビクタス -負けざる者たち-」というウィリアム・アーネスト・ヘンリーの詩です。
 「私を覆う漆黒の夜 鉄格子にひそむ奈落の闇 私はあらゆる神に感謝する 我が魂が征服されぬことを 無惨な状況においてさえ 私は ひるみも叫びもしなかった 運命に打ちのめされ 血を流しても決して屈服はしない 激しい怒りと涙の彼方に 恐ろしい死が浮かび上がる だが 長きにわたる 脅しを受けてなお 私は何ひとつ 恐れはしない 門が いかに狭かろうと いかなる罰に苦しめられようと 私こそが我が運命の支配者 私こそが我が魂の指揮官なのだ」
 この言葉を支えに,彼は過酷な運命にも屈しなかったのです。

 皆さんも,社会に出たら経験したことのない困難に直面する時もあるでしょう。「なぜ誰も私の悩みを理解してくれないのか?」,「なぜ正当に評価されないのか?」,「自分は一生この仕事を続けるのか?」等と悩んだ挙句,自分自身の生き方や進むべき道を見失うこともあるかもしれません。そんな時は,この詩を思い出してください。「貴方の運命の支配者は貴方自身,貴方の魂の指揮官は貴方自身である。」ということを。

 「私はマンデラ氏のように強くない。」と思う人もいるかもしれません。確かに彼のように強靭な精神の持ち主は少ないでしょう。しかし,皆さんは獄中のマンデラ氏のように孤独ではありません。皆さんには,大学で出会ったかけがえのない友人,いつも見守ってくれた先生たちがいるはずです。厳しい現実に押しつぶされそうになり,一人では答えが見つからないような時は,友人や先生に悩みを打ち明けてください。きっと,あなたの折れかけた心に,副え木のように寄り添ってくれるでしょう。社会に出たら多くの人に出会いますが,生涯の友と呼べるような出会いは決して多くはありません。例え遠く離れていても,皆さんが互いに支えあえる友であり続けることを願っています。

 ここにいる皆さんの未来は十人十色でしょう。一つの会社に定年まで勤める人,途中で転職する人,卒業生の数だけ違う未来が皆さんを待っています。しかし,皆さんの母校は変わらずにこの大分に在り続けます。皆さんが,「ただいま!」と言える場所で在り続けるよう,私たち教職員が一丸となって大分大学を守り抜きます。そして,いつの日か,社会人として大きく成長した皆さんと,母校で再会できることを楽しみにしています。

 皆さんの未来が笑顔で溢れていることを祈って,私の告辞とします。

   令和3年3月25日


国立大学法人大分大学長 北野 正剛