大学概要令和4年度 卒業式・学位記授与式 告辞

学長メッセージ

令和4年度 卒業式・学位記授与式 告辞

晴れて本日、卒業式・学位記授与式を迎えられた皆さん、おめでとうございます。
また、この日まで皆さんの成長を支え見守って来られたご家族や関係者の皆様に心からお祝い申し上げます。

この度、1,046名の学部卒業生、184名の大学院修了生及び学位取得者の皆さんを送り出すに当たり、大分大学を代表して一言お祝いの御挨拶を申し上げます。

ここにいる多くの皆さんは、大学生活の殆どを、新型コロナウイルスに翻弄され、授業やサークル活動等における制限により、友人との出会いや授業の合間での語らい、さらに留学生との触れ合いなど、入学時に夢に描いたようなキャンパスライフを十分満喫する機会が少なかったと感じていることでしょう。

このことは、私も大学運営を預かる者として大変残念でなりません。 しかし、生活を一変させたコロナ禍において、自らの努力により様々な苦難を乗り越え、本日の晴れの日を迎えることができたという事実は、既に皆さん一人ひとりの人生にとって大きな財産となっていると確信しています。
さらには、ここにいる皆さんは、大分大学において、コロナ禍をともに乗り越えた仲間であり、皆さん方の中に同窓を超えた特別な絆が生まれることを強く願っています。

さて、これから皆さんが未来に羽ばたくにあたって、私自身のことを振り返り、皆さんに伝えたいことがあります。

私は、九州大学医学部を卒業後、外科の道を志しました。
当時は、門脈圧亢進症という病気を患う患者さんが非常に多く見受けられました。
この病気は、肝臓が炎症を起こして硬くなる肝硬変のため肝門脈の圧が上昇し、食道に血管の瘤が発生する疾患のことです。
私が外科医になった頃はその治療としては、患者さんに大きな負担となる外科手術が主流でした。特に吐血の後の手術では半数の方が亡くなるというとても大変な病気でした。
私が大学院に入学した頃から、「内視鏡的硬化療法」が注目されはじめました。これは、口から入れる内視鏡を通して静脈瘤血管に小さな針を刺して薬剤を注入し、固めることで静脈瘤破裂を防止する治療法で、お腹を大きく切る外科手術に比べると格段に身体的負担が少ない治療法です。
私は、ケープタウン大学留学中にこの注射を繰り返せば静脈瘤が消えてしまうことを発見し、「お前は外科の敵だ」と言われながらもこの治療法を世界に広めることで多くの患者さんの命を救う事ができました。その後、同じ内視鏡を用いる体に優しい治療の開発に邁進し1990年にはいち早く腹腔鏡手術を取り入れ、その翌年には世界初の腹腔鏡による胃がん手術を成功させる事ができました。
このように、内視鏡やカテーテルなど、身体に優しい「低侵襲治療」の発展に関わることができたという巡り合わせに感謝の気持ちでいっぱいです。良い指導者、先輩、同僚、後輩と出会うことができ、その方々と共に医学の道を歩んでこられたおかげであると今でも心から感謝しています。また医師として駆け出し時代から現在に至るまで、与えられた境遇に関わらず、日々創意工夫を凝らし、全力で物事に当たることを信条とし、実行してきたことが役立っていると思っています。

皆さんは、これから、就職や進学など、新たなステージへと進み、長い人生を歩んでいくことになりますが、その前途では、様々な試練や困難に遭遇することでしょう。
「一念、天に通ず」という言葉のとおり、成し遂げようという固い決意さえあれば、その意志は天に通じ、必ず成し遂げることができます。自分自身を信じ、全力で取り組み、是非、乗り越えてほしいと思います。

また、人との出会いを大切にしてください。
人生の中で、人と出会うということは、天文学的な偶然が重なったものです。まさしく「縁(えん)」です。一人ひとりとの出会いを大切にして、多くの良縁に恵まれ、豊かな人生を送ってもらいたいと思います。

最後になりましたが、皆さんのそれぞれの人生は、皆さんしか歩むことのできない唯一の道です。
冒頭に述べたとおり、皆さんは大分大学において、自らの努力によりコロナ禍における様々な苦難を乗り越えてきました。このことに誇りと自信をもって、強い信念のもと自分自身の夢に向かってしっかりと人生を歩んでください。必ずや道は開かれます。

皆さんが素晴らしい未来を手にすることを祈念して、告辞とします。


 令和5年3月23日

大分大学長 北野 正剛