大学概要平成19年 年頭の挨拶

学長メッセージ

平成19年 年頭の挨拶

 明けましておめでとうございます。教職員の皆様には,お健やかに新しい年をお迎えのことと存じます。今年は例年になく暖かなお正月でした。

はじめに

 昨年は秋以降暖かな天候が続き,一時期平均気温が過去最高記録を更新した上に,月間雨量も最低記録を更新するなど,異常気象の前触れとも思わせる天候が続きました。これが地球温暖化に依るものかどうか短期的には判断しがたいことですが,環境問題に対して我々大学関係者も認識を高めるとともに,具体的なアクションを起こす必要があります。本学は,昨年,法人に課せられた環境報告書を公表しました。二酸化炭素排出量の監視ならびに削減への努力に限らず,我々が日々環境へ与えているインパクトを減らすことが必要です。環境保全への行動は,エネルギーや資源の節約にとどまらず,併せて教職員の勤務環境改善にも寄与するものです。

 なお,勤務環境に関連しまして,挾間キャンパスでは,1月1日より禁煙キャンパスがスタートしました。旦野原キャンパスでも実現に向けて準備が進んでいますが,一日も早い実現に力を入れなければなりません。


教育をめぐる課題と研究者倫理の問題

 かえりみますと,昨年も多くの事件が発生し,社会問題としてマスコミを賑わせました。それらの中で,特に大学に関連することとして,教育問題と研究者倫理の問題を取り上げたいと思います。教育問題は,初等中等教育における学力不足やいじめ問題に端を発し,ゆとり教育の見直しや教員の指導能力向上の問題に進展し,昨年秋の安倍内閣の発足と共に教育再生会議が設置されるに至っております。教育再生会議では,現在主に初等中等教育のあり方について議論がなされており,大学関係の課題では秋季入学制度が言及されているところで,本格的な高等教育の検討はこれからと聞いています。時を同じくして高等学校における未履修問題が発覚し,本学も対応に追われたところです。これは,基本的には高等学校の問題という意見が多数を占める中で,大学入試のあり方が遠因とする意見も新聞等で展開されており,再生会議の議論に注意しつつ,今後我々も常に入試全般について検討を続けねばなりません。なお,昨年暮には,教育基本法改正案が成立しました。

 もう一つの話題は,研究者の不正に関するもので,予算使用上の不正及び研究成果の捏造がその主たるものです。これらの不正行為は,社会に対する大学の信頼を失墜させる以外の何者でもなく,断じて許すことは出来ません。幸い本学ではその様な事例はまだ発生していませんが,いかにして発生を防ぐのか,基本的には教員のモラルに関わることですが,対策を練っておく必要があります。国や学術会議のガイドラインも出されており,本学も基本的なポリシーは先般取り決めたところです。今後,対応システムの整備に入らねばなりません。これに関連して,本学ではセクシャルハラスメントやパワーハラスメントへの対応システムが整備されていますが,他大学で報道されているような厳しい処分を伴う事例が発生しないよう,今後とも人権尊重に対する学内構成員各位の認識を強めていただくようお願いいたします。



18年から19年へー成果と課題-

 さて本学の状況です。最初に,昨年のおさらいを,事項を上げながら述べさせてください。一部は,1週間前の仕事納め式で申し上げた事と重なります。

1)最初に,評価に関する課題です。

 一昨年から取り組んできました平成17年度目標達成への努力が昨年3月末まで良好なペースで進行し,全項目にわたってほぼ完全達成,あるいは計画以上の達成という好ましい到達点に至ることが出来ました。これを受けて6月末までに報告書を作成し,評価委員会に提出しました。この提出前の5月には,法人評価委員会委員による訪問調査を志願して受けました。この訪問調査(ヒアリング)では,16年度に未達成であった諸課題の解決に本学がどう取り組んだかをアピールしましたが,その姿勢と達成状況が高く評価されました。一方,6月に提出した報告書に対する法人評価委員会によるヒアリングは8月に行われ,その最終評価結果が9月に到着しました。おおむね自己評価と一致する評価結果で,全体として前年度より高い評価を得ました。しかし,一点のみ達成度に関して見解が異なったため,当該事項は想定よりワンランク低い評価となりました。また競争的資金(科研費,概算要求教育研究特別経費ほか)の獲得状況を改善することが求められ,これについてはWGを設置して戦略を検討しているところです。既に18年度も最後の四半期に入りましたが,引き続き着実に計画を達成し,目標達成を目指さねばなりません。また19年度は暫定評価ならびに認証評価の前年度にあたり,当初計画を上回る目標達成が以降の評価に大きく影響を与えます。評価へ対応する体制の充実を図りたいと思います。

2)次に運営体制の改革についてです。

 この課題は中山前学長の時から取り組んできた課題ですが,おおむね完成し,昨年春から実施へ移しました。具体的には,学長室及び理事室の設置,部門会議の設置と委員会の整理統合,学長補佐や学長特別補佐の配置,運営の効率化・迅速化を目指した事務部門の改組,民間からの人材登用,等に取り組みました。監事監査に基づく指摘は,事務体制の改善に限らず法人組織に求められる諸システムの整備に活かされ,危機管理体制や情報セキュリティ体制の構築,安全・リスクへの対応システム整備などを行いました。委託業者の過失による附属病院関連情報が入ったPC紛失事件の際には,これら対応システムのおかげで,適切な対応が出来たと思います。一方で,時間外勤務管理の点で反省すべき事象も発生し,労働基準局の指導を受け是正しました。今後とも,コンプライアンスの大切さを全学的に認識する事が大切です。

3)続いて経営状況の改善についてです。

 財務運営システムの改善は順調に進んでおり,業務の見直しに基づく適正な人員配置,水光熱費をはじめとする経費の節約,剰余金の有効活用,などに取り組んできました。特に,人件費については,シミュレーションの精度向上に取り組んできました。法人収入の過半を占める医学部附属病院においては,収入増による安定経営ならびに安全の確保に向けて,病院長はじめ関係者の絶えざる努力が行われています。とりわけ,保険単価の大幅な見直し(低下)にも関わらず,多様な努力で収入減を相当程度カバー出来る見通しと聞いており,高く評価されるものです。今春完成予定の学内保育園の設置が,看護師確保にも貢献するものと期待されます。

4)教育・研究・社会連携の推進に関する課題についてです。

 これら3分野に関しては,担当理事の下で細かく計画表が作成され,実施されてきました。詳細は時間の関係で割愛させていただきますが,新しい部門制の下で集約化・効率化がはかられており,個別課題の解決に理事がリーダーシップを発揮されています。現在,18年度計画の完全達成へ向けてラストスパート中と思いますが,ぜひ高い達成率を目指していただきたいと思います。各分野の重点課題は,昨年11月に出した学長コメント「17年度評価を受けて」の中で述べましたので参照してください。ここでは,各分野における,話題性に富む取り組み事例を紹介します。

 教育分野では,教育プロジェクト担当学長特別補佐を配置したこと,経済学研究科博士(後期)課程の設置が承認されたこと,医学部に卒後臨床研修センターが完成したこと,大分県によって医学部編入学への地域枠が設定されたこと,教育GPで初の予算を獲得したこと(国際教育GP),学歌制定の事業が進行し2月末に披露するとともに卒業式・入学式で演奏される予定であること,学生表彰規定を整備し2名の学生を表彰したこと,学生活き2コンテストを行い学生の発想やパワーを大学運営に活用したこと,県内私大(APU,別府大)との協力協定を締結したこと,看護科学大との連携が進んだこと,などが挙げられます。

 研究分野では,研究プロジェクト担当学長特別補佐を配置したこと,ノーベル賞受賞者2名を招聘(へい)し名誉博士号を授与するとともに市民向けの講演会を開催したこと,佐藤禎一前ユネスコ大使の講演会を開いたこと,法人化後の教員特許が初めて実用化されたこと,科学研究費補助金申請者の増に向けて取り組みを強めたこと,各種助成金情報配布体制を整備したこと,情報基盤整備計画を策定したこと,イノベーション機構コアセクターとして知的財産本部の体制強化をはかったこと,先端医工学研究センター及び福祉科学研究センターの充実をはったこと,などが挙げられます。

 国際・社会連携・広報分野では,定例記者会見が定着しそれに伴って情報発信量が大幅にアップしたこと,すべての自治体(市・県)との包括的協力協定締結を終えたこと,中小企業金融公庫との間で協力協定を締結したこと,イノベーション機構を設置したこと,産業界との連携を強め大分経済同友会及び大分商工会議所に入会したこと,経済学部及び医学部に寄付講座が設置されたこと,1年間にわたる本学と大分合同新聞社との防災に関する共同企画「明日を守るー防災立県をめざしてー」を実施したこと,5同窓会との共催による同窓生大会を大分・東京・大阪の3会場で開催したこと,海外の交流協定校をさらに増やして40大学になったこと,MOT講座や産学連携コーディネーター制度など連携活動の幅を広げたこと,などが挙げられます。

 これらの活発な活動に対して,18年度から趣旨を明確にし精選された課題に配分を行った学長裁量経費が,貢献出来たものと考えています。19年度学長裁量経費についても,早期に利用できるよう,近日中に募集を始めたいと考えています。



19年度概算要求について

 本論の,19年度予算の話に移ります。昨年暮れも押しつまった25日に国大協の臨時学長会議が開かれ,予算の内示状況が明らかとなりました。国立大学法人運営交付金総額は,対前年度比-1.4%の12,044億円でした。―1%の削減については,政府のいわゆる骨太の方針に則ったもので,これはやむを得ません。しかし,-αである0.4%については,今年度限りであること,またもともと退職手当に組み込まれていて実際には法人の運営に影響しないとは言うものの,法人化の際の約束に反するものとして,承伏しがたいものです。学長会議では,このことを文書にまとめ,今後に備える事としました。

 これに授業料や病院収入などの自己収入9,923億円を加えた21,967億円が来年度の事業費総額です。これは18年度予算とほぼ同額(-0.4%)ですので,19年度予算は,いわばギリギリのところで踏みとどまったという状況です。なお,施設整備費は19年度予算で906億円,18年度補正予算で1,208億円に決まりました。

 国大協が強く反対し,最も心配された入学金基準額の改訂は,幸い見送られました。今回国は新たな方針として,中期期間中は基準額の改定を行わない事としました。各国立大学法人は,この基準額をベースに,従来より広くなった上限裁量幅120%の範囲で独自に設定できる事となりました。その代わり,では無いでしょうが,再来年度から,入学者数の定員オーバーに対して,新たに制限を加える方針を出してきました。現在,定員割れについては厳しいライン(来年度から課程ごとに90%)がありますが,今後は定員オーバーについても制限が始まる事となります。当面学士課程対象という事ですが,学長会議ではこれに対して強い懸念の声が出されました。定員オーバーの許容幅については今後1年間を掛けて審議されるという事ですが,今後の入学者数管理は,一段と難しさを増す事が懸念されます。

 さて,肝心の本学への19年度運営交付金の内示額ですが,94億6,120万円でした。18年度に比べ,1億6,768万円の減でしたが,主な要因は,退職手当の見込額の減少によるものです。先にも述べましたが,各大学が競う色彩が強い特別教育研究経費に関しては,採択5件(うち継続2件,新規3件),内示額1億2,129万円であり,18年度の2件・4,641万円と比べ件数・金額ともに増加しています。新規採択3件の内訳は,教育臨床的対応力育成のための「教育臨床実習」プロジェクトー心と発達の問題に対応できる資質能力の確実な養成ー,東アジアにおけるヘリコバクター・ピロリ感染と胃癌研究の拠点形成,ICTを活用した双方向型地域再生モデル構築事業です。なお,先頃設置審で決まった経済学研究科への博士課程設置に伴う経費も,この予算の中で措置されています。さらに,施設関連予算ですが,教育福祉科学部及び経済学部の校舎耐震改修工事が平成18年度補正予算でされています。本学の教育研究環境整備を実現するもので,大変喜ばしい事です。

 この様に,次年度概算要求では従来以上に新規課題が採択され,金額も伸ばす事が出来ました。これは,個々のテーマが計画・実績共に優れていた事はもちろんですが,従来より取り組みのスケジュールを早め内容の精査に時間を掛けた成果と考えています。申請に至る作業にご協力いただきました代表者,各学部長・研究科長,財務担当事務方の各位に,お礼申し上げます。

 今後は,17年度評価で指摘されたプロジェクト経費の獲得力低下の克服を目指して,20年度概算要求に取り組まねばなりません。前年度以上の速いペースで現在準備を進めています。各部局から提案された要求事項のヒアリングを先月終え,事項の絞り込みをもとに,今後各部局長との協議に入ります。いつも申すことですが,提案部局単独の企画ではなく,大分大学の全体計画の中での位置付けに重点を置きながら,内容のツメを行うことが重要と考えています。



おわりに

 早いもので,中期目標期間の半分が過ぎようとしています。ご存じのとおり,次年度19年度までの成果をもとに,暫定評価が行われます。暫定評価のかなりの部分は,最終評価に取り入れられると考えられますので,本年の取り組みが今後の評価に大きな影響を与えると考えねばなりません。次年度には認証評価も受けますので,評価作業はきわめて多忙化すると考えられます。今後,体制の充実を図ります。本学の長期的な将来構想については,現在戦略会議で審議いただいており,早めに中間報告を示したいと考えています。少子化が進む中で,どの様な教育研究組織や体制が望まれるのか等,提言いたしたいと思います。これを受けて,将来計画会議の場での議論等を基に,次期の中期期間における目標・計画を定める作業に移らねばなりません。

 このほか,COEへの対応や教養教育システムの改革,重点研究課題の選定など,急ぐべき多くの課題がありますが,それらの詳細は,運営会議や部門会議などの場を通じて,お伝えしていきたいと思います。

 以上,いろんな事を申し上げましたが,特色ある大学づくりを進めることが,学長の最大の責務と考えています。このためには,教育・研究・医療・社会連携の各分野において,計画の完全実施とともに新たな積極的な取組を進めることが重要です。全教職員が力を合わせることによって,必ずや明るい展望が開けるものと確信しています。理事・部局長ならびに教職員各位のご支援・ご協力を得まして諸課題を達成いたしたいと考えておりますので,本年もどうぞ宜しくお願いいたします。


 これをもちまして,平成19年,新年の挨拶とさせていただきます。




平成19年1月4日

国立大学法人大分大学学長 羽野 忠